元バンドマン現ブサドルマネージャーの明日はどっちだ!? 不器用な若者たちの名もなきがむしゃら台北青春譜

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無名歌 / 1
作者:ROCKAT
タイトル:無名歌 / 1
制作国:台湾
ジャンル:音楽/職業・業界
ページ数:186ページ

ぐはっ! なんつーエレジー感。朱色で「無名歌」だと? しかも「歌」の「欠」の部分が「ん」になってるやんけ……。ヒッピー風ファッションに身を包みギターを抱えてうっすらと微笑むおねーちゃんに両手をジーンズに突っ込んだ小生意気そうなにーちゃん。ジャケットからのぞくTシャツが、オレは社会に媚びないという意志をビンビンに主張している……。音楽にウツツを抜かす若い男女が、夢と現実の間で傷つき苦しみながら、青臭い色恋沙汰を繰り広げるめんどくさいマンガ臭がハンパない。読む前に一瞬構えてしまう、せーのと言ってからでないと読み始められん、そんな表紙である。

ところが、巻頭、読者を迎えるのは「宇宙人皆殺しベイビー♪」などというわけのわからない歌詞に合わせ絶叫するパンクガールと彼女にさかんにゴマをするちゃらそうな男である。パンクガール、いいじゃない……。パンクガールの正体は依依(イーイー)。宜蘭(ギーラン)のド田舎からやってきたアイドル志望の女の子。依依と書いてイーイーって……。カワイイじゃねえか……。男の名は「太陽」こと潘宇陽(バン・ユーヤン)。表紙にも登場していたこの物語の主人公である。

パンクガール依依(イーイー)と太陽
パンクガール依依(イーイー)と太陽

太陽は大手アイドルプロダクションで働くしがないサラリーマン。業績は悪く、勤続3年目にしてまだ芽が出ていない。彼が見つけてきた依依も後輩のやり手社員に奪われ、「幼女時代」のメンバーとしてデビューさせられてしまう。ちなみに依依は結構重要な役どころではあるが、残念ながら主役ではない。

幼女時代メンバー依依
幼女時代メンバー依依

また新たな挫折を味わったその夜、太陽は、路上で歌う少女と出会う。彼女の名はルナ。太陽は彼女の拙いながらも誠実な歌に思わず聞きほれる。

路上演奏をするルナ
路上演奏をするルナ

演奏を終え、太陽の顔を見上げたルナは、太陽がかつて存在したバンド「核実験」のボーカルであることを見抜く。「核実験」は彼女を音楽活動へと導いた、思い入れのあるバンドだった。まだ活動しているのかと問うルナに、太陽はためらいがちにプロダクションの名刺を差し出す。「何だ… つまんないの…/ちっとも夢がないわ…」それが彼女の答えだった。太陽はついムキになってルナを否定し、彼女を負け犬扱いしてしまう。だが、彼は知っていた。負け犬とは彼自身に他ならない……。

ルナと太陽。音楽の夢を捨てた男と今まさに音楽の夢を追いかけている女
ルナと太陽。音楽の夢を捨てた男と今まさに音楽の夢を追いかけている女

ルナとのやりとりのわだかまりを心の奥底にしまい込んで、会社員としての日常に戻っていく太陽。業績の悪い彼に社長がラストチャンスを与える。それは、ブサイクかつKYなアイドル白雪のマネージメントだった。やがて太陽の心に小さな心境の変化が訪れる。そして、ある日、太陽は、思いがけない場所でルナに再会する……。

つーことで、この作品、音楽をテーマにした青春ものではあるんだが、男女の色恋沙汰に焦点を当てた作品ではまったくなく(今のところ)、一度は音楽の夢を諦めたロック原理主義者の元バンドマン太陽が、アイドルプロダクションという、自分の理想とは真逆の場所で、どうもがいていくかという土田世紀の名作職業マンガ『編集王』的なあつーい作品になっているのである。太陽は環八のように網膜剥離を患ったわけじゃない。おそらく彼は、このあと音楽に戻っていくのだろう。そんないいシーンで第1巻は終わっている。

台湾にもこういう熱いマンガがあるんだなあ……。これはオレ、好きだわー。海外マンガの翻訳者として、こういう作品を訳したいわー。今のところ邦訳は第1巻のみだが、続きもぜひ邦訳されるべきだろ、これは!

作者は台湾の新鋭ROCKAT。彼はあとがきで自身の音楽原体験を語っている。高校時代に出会い、決定的に影響を受けたという台湾のロックバンド「1976」、大学時代に知ったやはり台湾のロックバンドで過激なパフォーマンスで知られた「LTKコミューン」。この作品を描く原動力にもなった、若かりし彼を揺さぶった熱い音楽。台湾の音楽シーンなんて、なかなか日本では話題にならないが、こんなステキなマンガを描く作者が気に入った音楽だ、悪いものであるはずがない。ある作品をきっかけに新たな扉が開く。海外文化を楽しむ醍醐味である。

ちなみにROCKAT本人も自分で音楽を作るそうで(日本のマンガ家にもそういう人はいるが、なんつー才人!)、自作の『無名歌』主題歌がYou Tubeで公開されている。作中人物のルナが歌っているイメージだろうか。この作品が気に入った人は、せっかくなので、ぜひ聞いてみていただきたい。

レビュアー:原正人

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