心地よく秘密めいた墓地の日常〜アリスクちゃんのゴースト・パラダイス〜―『アリスク 1 / 秋』

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原作:ウベルテゥッス・ルフレット
原作・作画:ヘルゲ・ヴォット
タイトル:『アリスク 1 / 秋』
ジャンル:ファンタジー/モンスター/バンド・デシネ
ページ数:114ページ

ある夜一人の少女が目を覚ますと、そこは棺の中だった。
そこに寝そべったまま外を見上げると、目の前には大きな墓穴がぽっかり口を開け、遠くの空から雨つぶを飲み込んでいる。
それだけでも不思議でならないのに、墓穴の側で傘をさしてこちらを見下ろす連中が、これまた奇妙な姿をしたヤツばかり。
「やあ お嬢さん!」「ステキな晩だわねぇ」それが彼女に送られた、死者の世界への歓迎の挨拶だった。

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冒頭から早くもエンディングを迎えてしまった少女アリスクの人生でしたが、物語はここから始まります。死にたてホヤホヤである主人公、元ティーンネイジャーのアリスクは、突然の死を受け入れられないだけでなく、この時点で生前の記憶が一切ありません。これは新たな死人ライフのスタートにとってかなりの不安材料ですが、不幸中の幸いでご近所さんはみな親切でした。ではここで、死後の世界の先輩にあたる、個性的な墓場メンバー5人を紹介いたしましょう。

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フリングス

『フライング・フリングス』というサーカスの元座長。陽気でおしゃべり、お調子者。空中ブランコから落ちて死亡。

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マッチ棒

元牧師。その頭に常に火が灯っている事からあだ名がついた模様。火事によって焼死。

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フォン・ラング将軍

片眼鏡をかけた恰幅のよい軍人。派手な軍服の中央には大きな穴ぼこが空いている。敵の罠に落ちて爆死。

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おばあさん(オルティス)

みんなにとっての肝っ玉母さん。悲恋のすえ僧院に隠遁し19世紀を生きた。御歳90歳で老衰にて死亡。

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口数の少ないのっぽ

400年以上墓場にいる最古の『死者』。言葉を全く発しない。死因も不明。

この墓場の5人に新顔のアリスクちゃんが加わることで、新生墓場シックスを結成。だからといって特にやる事も無いので、墓場シックスの面々は毎日墓石の上でトランプをしたり、チェッカーをしたりしながら思い思いに死後の時間をつぶします。なんで彼らが死んでまで、こんな修学旅行の中坊みたいな事をしているかというと、死神様に原因がありました。

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普通死んだ人間の元には魂の回収人がやって来ます。そこから死神様のお裁きを経て『光』か『闇』に送られるのですが、アリスクたちのようなごく一部の死者は結審がすんでいません。そのため墓場の中でくすぶりながら、死神様が仕分け作業を終えるのを待ち続ける事になり、何十年も、時には何百年もモラトリアムな死人ライフを満喫するはめになるのでした。つまり彼らにとっての墓地は、行き場の無い魂の拘置所だったわけです。
そして死神様の命を受けて、この区域を担当しているお役人がこの方。

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ジョー・ラ・フォー(中央)

死神様の伝令官。毎度墓地にやって来ては、みんなと一緒にゲームをして楽しんでいる。

このプロフィールを見て、結審まで400年も待たされている理由が、何となく分かった気がしますね…
しかしこのジョー・ラ・フォーさんも一応は死者の世界のお役人なので、墓場の連中にはちゃんと死者らしくさせて、死後の規則を守らせる義務があります。規則は『77の3倍の書』なる本にきちんと明文化されて記されており、内容も『死者は墓場から外へ出てはならない』など大変厳しいもの。
が、墓地があまりに退屈なせいか、はたまたジョー・ラ・フォーさんがナメられているせいか、墓場シックスの面々は、この規則をまったく守るつもりがありません。

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お洋服を爆買い中のアリスクさん

こうして見ると死者の生活も割と楽しそうですね。
そんな中、止まった心臓も再起動しちゃいそうな霊感少年ルーベンが登場。アリスクは目の不自由な彼に自分の正体がバレないのをいい事に『死者は霊感のある人間とコンタクトしてはいけない』という、別の規則までも破ってしまいます。しかもルーベンとアリスクの間には何か因縁めいた過去がある様子。さらにはアリスクと仲間達の眠る、古い墓地を再開発しようとする業者が現れて…第一巻の終盤に来て物語は一気にドラマチックな様相を深めて行くのでした。

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重々しいまでの彩色で隅々まで塗り込まれた『アリスク』の世界は、それだけでも圧巻の完成度を誇りますが、同時にキャラクターなどの造形にはカートゥーン的な軽妙さがあります。これはピクサー作品のコミカライズ等も担当して来た、作画のヘルゲ・ヴォットの資質による部分が大きいと思われます。
またページのあちこちには、ポップカルチャーとしてのゴシックな意匠がふんだんに施されており、本全体がゴッスゴスなパッケージングをされています。そういった意味でこのアリスクは『レノーア』や『ルビー・グルーム』などのゴスでかわいいキャラクターの系譜にある作品と言えるでしょう。
ドイツ出身の二人の作家が生み出した、21世紀型ドイツゴシック式バンド・デシネ『アリスク』。ダークファンタジーの中にもロマンスとユーモアの溢れる楽しい作品ですので、興味を持たれた方は是非ご一読を。

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レビュアー:うしおだきょうじ
作品紹介 無料試し読み

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