失われた故郷を求めて―『神之郷(かみのふるさと) / 上』

台北の大学で美術を学んでいる女子大生、陳暖暖(チェン・ナンナン)は、進路に漠然とした心配を抱えている。3年生が終われば、卒業制作の準備をはじめなければならない。指導教授との面談では、技術的には申し分ないと評価されつつも、何かが足りないと指摘された。「創作にはちょっとした衝動やキッカケが必要だからね」。指導教授のそんな言葉が、胸に響く。 指導教授の言葉に感化された暖暖(ナンナン)は、勇気を振り絞り、衝動の赴くままに、ずっと気になっていた同級生、夏志薫(シャー・ジーシュン)にアプローチをかける。 大学の講義「台湾郷土文化」の夏休みの課題としてフィールドワークを行なうことになった二人は、志薫(ジーシュン)の故郷である大溪(ダーシー)に向かう。 志薫(ジーシュン)は父母の離婚に伴い、母親について7年前に台北に引っ越してきて以来、大溪(ダーシー)に戻っていなかった。実に7年ぶりに故郷に戻った彼(と暖暖)をかつての親友、一心(イーシン)が迎える。 折しも大溪(ダーシー)では、第二の正月とも言われる盛大な祭り「六月廿四(ろくがつにじゅうよん)」の準備が進められていた。地元の若者の一人として積極的に準備を進めている一心(イーシン)は、志薫(ジーシュン)に祭りに加わり、僮仔(ダンアー)役を演じてみないかと誘う。最初は躊躇した志薫だが、久しぶりに再会した父親の心無い言葉で、かえって挑戦してやろうという気持ちが高まる。 こうして僮仔(ダンアー)を踊るための志薫(ジーシュン)の特訓が始まる。一心(イーシン)とともに僮仔を踊ること、それは幼い日の憧れであり、台北に引っ越す前の一心との約束でもあった。志薫が台北に引っ越すことで止まってしまった時計が、再び時を刻み始める……。 ということで、この作品『神之郷(かみのふるさと)』は、大溪(ダーシー)という田舎出身で、現在台北で大学生をしている志薫(ジーシュン)が、故郷を再発見し、仲直りをする話であると同時に、都会出身の女子大生、暖暖(ナンナン)が、片思いの相手であるその志薫を通じて、田舎の文化を発見する話でもある。志薫だけでなく暖暖を配置したことで、都会(台北)と田舎(大溪)の対比がより一層際立っているんじゃなかろーか。都会と田舎の対比は日本にももちろん当てはまることだが、そこで描かれる文化が日本とは異なっていて興味深い。老街(ラオジェ)と呼ばれる古い街並み、六月廿四という祭り、三太子、僮仔、月光餅……。月光餅食ってみてー。志薫について大溪を訪れた暖暖は、消えゆく伝統文化とそれを残そうとする人々の想い、そして何より、愛する故郷から引き離され台北という都会で暮らさざるをえなかった志薫の複雑な心中をつぶさに知ることになる。都会にいても田舎にいても、人はそれぞれ、さまざまなわだかまりを抱えながら生きているわけだけど、それがふとしたきっかけでこじれたり、ほぐれたりするさまが実に繊細に描かれている。絵もうまくてストレスフリー。もはや日本のマンガと何ら変わらないと思う。上巻は志薫と一心(イーシン)のわだかまりが解け、父親との関係にぐっと迫りそうな引きを残して終了。これは下巻も出さにゃならんでしょう。 レビュアー:原正人 作品紹介 無料試し読み

偽装宦官少年vs偽装宦官少女? 偽りと倒錯の後宮へようこそ―『緋色の王宮 / 1 ―蝶の夢―』

戚(せき)国で貧しい生活を送る陵鈺(りょうぎょく)は、父母もなく、兄と二人暮らし。陵鈺が少女に身をやつし、奴隷商人に身売りするふりをして、金を騙し取ることを生業としている。 そんなある日、いつも通り奴隷のふりをしていると、彼らは、戚(せき)国に囚われの身となっている淀(でん)国の王子、珣(じゅん)と出会う。珣は、気位こそ高かったが、何やかやと尽くしてくれる陵兄弟に感謝の念を抱く。 やがて、淀国の王が死に、珣がその跡を継ぐことに。珣は母国に陵兄弟を連れて行こうとするが、兄は生まれ故郷である戚国に留まることを決意する。しかし、弟の陵鈺は、珣が自尊心を捨ててまで、自分の同行を求めていることを感じ取り、彼についていく決意をする。若干13歳で戚国王位を継いだ珣は、その3年後、戚国を滅ぼすことになる。 それからさらに3年。珣(じゅん)が淀(でん)国の王に就いて6年が経とうとしていた。今や珣は暴君として誰もが怖れる存在に。陵鈺(りょうぎょく)はと言えば、敵国戚の生まれでありながら、王に対して忠誠を誓うことを示すために宦官となり、王宮の二人の実力者の内のひとり「少府」として、絶大な権力を握っていた。噂では王はもはや珣の言葉しか聞かないというほど。 そして、もうひとりの実力者が、「王后少府」を務める名門「景(けい)家」の淵人(えんじん)。やはり宦官である。 淵人は、淀国における景家の地位を盤石なものにすべく、一族の末娘、寧湖(ねいこ)を王后にすべく、一計を案ずる。それは、周囲の目を逸らすために、寧湖をまずは宦官として後宮に迎え入れ、王に近づく機会をうかがうというものであった。 かくして、寧湖は、少女の身を宦官と偽り、後宮を牛耳る少府陵鈺(りょうぎょく)と王后少府淵人(えんじん)の権力闘争に巻き込まれることになる。ところが、鋭い感を持つ陵鈺は、やがて、寧湖の正体に気づいてしまったらしい。一族のためにと、危険を顧みず性を偽り後宮に入り込んだ寧湖は、思わぬピンチを迎える。ところが、やがて読者は驚くべき事実を知ることになる。陵鈺もまた宦官ではなく、正真正銘の男だったのだ。その事実を知った陵鈺の親侍は、陵鈺の手で廃人にされてしまう。そして、陵鈺は新しい親侍として、寧湖を指名することになるのだった……。 つーことで、なかなか複雑な設定の本作『緋色の王宮 / 1 ―蝶の夢―』。最大の見どころは、偽装した宦官である少府陵鈺(りょうぎょく)と、そのライバル淵人(えんじん)が送り込んだ、やはり偽装した宦官である寧湖(ねいこ)の絡み。豪華絢爛な後宮を舞台にしたトランスベスティズム(異性装)の饗宴。宦官たちのところにフツーの女と男が入り込んでいるもんだから、「あ、見えちゃいそう」とか「あ、触っちゃダメ」とか、ハラハラドキドキの連続。陵鈺は寧湖が女であることに気づいてるっぽいけど、寧湖はまだ陵鈺が男であることには気づいていないっぽい。身分の違いもあり、当然寧湖のドキドキは高まるばかり。そんな寧湖に陵鈺がいろいろとちょっかいを出す……。幼い頃、あんなにいい子だった陵鈺は、今やすっかり妙な色香を漂わせたミステリアスな偽宦官となり、後宮で暴虐の限りを尽くし、寧湖を翻弄するという構図。そういや陵鈺は、いいヤツだったとはいえ、幼い頃から既に、女装して奴隷商人から金を巻き上げるようなヤクザな男でもあったんだっけ。危うく騙されるところであった。 それにしても、何だって陵鈺は宦官のフリを? 今のところ、偽装宦官は陵鈺と寧湖だけだが、実は他にもいたりして? つーか王は若かりし頃の姿しか描かれてないが、どんなヤツになっちゃってんの? そういや、陵鈺の兄ちゃん、今ごろ何してっかなー? そして、寧湖たんの操やいかに!? 肝心要なことはまだ1巻では明らかにされてはいない。続きが気になってもやもやするが、これってちゃんと2巻出んの? レビュアー:原正人 作品紹介 無料試し読み

インドネシア発! お掃除女子の憂鬱!? 片づけられないイケメン王子との胸キュン同棲生活―『私と恋するナマケモノ / 1』

主人公のアリンは高校生。学業の傍ら、のんびり屋の母と一緒に下宿屋をきりもりしている。特技は掃除。何もかもがピカピカになっていないと気が済まない、そんな年の割には堅実すぎる乙女。 ある日、彼女の下宿に何の前触れもなく超絶イケメンが舞い降りる。彼の名はアルファン。実はアリンの同級生で、イケメンの上に成績優秀、さらにバスケ部のエースというハイスペックぶり。もちろん学校一のモテ男。当然性格は悪い。 だが、彼には唯一欠点があった。そう、彼は片づけられない男だったのだ。 アルファンの父親はアリンの父親の上司。アルファンのだらしなさにほとほと手を焼いた両親が、アリンのお掃除女子ぶりを聞きつけ、息子の面倒をアリンに押しつけてしまうことにしたのだ。こうして、ひとつ屋根の下、うら若き男女の共同生活が始まる。校内一のイケメン王子の傍若無人な振る舞いに、ことあるごとにイライラ、ドギマギし、翻弄されまくるアリン。どうなるアリン!? いや、これ楽しすぎでしょ。海外の作家が描いた日本マンガっぽいマンガは、日本人からするとどこかしら違和感があるものだが、この作品ではその違和感がいい感じに振り切れている。随所にツッコミポイントがあるのだが、それがマンガとして笑えるようになってるのがすごい。これは翻訳がいいのか、そういう箇所のセリフがまた、読者のツッコミを事前に察知したかのような感じになっていて、思わず笑っちゃうのである。 だが、このマンガは決してギャグマンガではない。『ストップ!! ひばりくん!』とか『らんま1/2』といった居候ものの遺伝子を受け継ぎつつ、隙あらば『君に届け』的な胸キュンまでやってしまおうという、王道的な学園ラブコメマンガなのだ。日本から遠く離れたインドネシアで日本マンガタッチのラブコメが……。と考えると、感動もひとしおな一作である。実際、この作品、最初から最後まで、ニヤニヤ、キュンキュン、オイオイが止まらない、とてもラブコメらしいラブコメなのだ。一応第1巻ということになっていて、続きもあるっぽいが、ストーリーはこれ1巻でもある程度完結している。日本の目の肥えた少女マンガ読み、ラブコメ読みには、絵の粗さが気になってしまうかもしれないが、そこは青田買いくらいの気持ちで、まずは試し読みしてみてはいかがだろう。 レビュアー:原正人 作品紹介 無料試し読み