偽装宦官少年vs偽装宦官少女? 偽りと倒錯の後宮へようこそ―『緋色の王宮 / 1 ―蝶の夢―』

戚(せき)国で貧しい生活を送る陵鈺(りょうぎょく)は、父母もなく、兄と二人暮らし。陵鈺が少女に身をやつし、奴隷商人に身売りするふりをして、金を騙し取ることを生業としている。 そんなある日、いつも通り奴隷のふりをしていると、彼らは、戚(せき)国に囚われの身となっている淀(でん)国の王子、珣(じゅん)と出会う。珣は、気位こそ高かったが、何やかやと尽くしてくれる陵兄弟に感謝の念を抱く。 やがて、淀国の王が死に、珣がその跡を継ぐことに。珣は母国に陵兄弟を連れて行こうとするが、兄は生まれ故郷である戚国に留まることを決意する。しかし、弟の陵鈺は、珣が自尊心を捨ててまで、自分の同行を求めていることを感じ取り、彼についていく決意をする。若干13歳で戚国王位を継いだ珣は、その3年後、戚国を滅ぼすことになる。 それからさらに3年。珣(じゅん)が淀(でん)国の王に就いて6年が経とうとしていた。今や珣は暴君として誰もが怖れる存在に。陵鈺(りょうぎょく)はと言えば、敵国戚の生まれでありながら、王に対して忠誠を誓うことを示すために宦官となり、王宮の二人の実力者の内のひとり「少府」として、絶大な権力を握っていた。噂では王はもはや珣の言葉しか聞かないというほど。 そして、もうひとりの実力者が、「王后少府」を務める名門「景(けい)家」の淵人(えんじん)。やはり宦官である。 淵人は、淀国における景家の地位を盤石なものにすべく、一族の末娘、寧湖(ねいこ)を王后にすべく、一計を案ずる。それは、周囲の目を逸らすために、寧湖をまずは宦官として後宮に迎え入れ、王に近づく機会をうかがうというものであった。 かくして、寧湖は、少女の身を宦官と偽り、後宮を牛耳る少府陵鈺(りょうぎょく)と王后少府淵人(えんじん)の権力闘争に巻き込まれることになる。ところが、鋭い感を持つ陵鈺は、やがて、寧湖の正体に気づいてしまったらしい。一族のためにと、危険を顧みず性を偽り後宮に入り込んだ寧湖は、思わぬピンチを迎える。ところが、やがて読者は驚くべき事実を知ることになる。陵鈺もまた宦官ではなく、正真正銘の男だったのだ。その事実を知った陵鈺の親侍は、陵鈺の手で廃人にされてしまう。そして、陵鈺は新しい親侍として、寧湖を指名することになるのだった……。 つーことで、なかなか複雑な設定の本作『緋色の王宮 / 1 ―蝶の夢―』。最大の見どころは、偽装した宦官である少府陵鈺(りょうぎょく)と、そのライバル淵人(えんじん)が送り込んだ、やはり偽装した宦官である寧湖(ねいこ)の絡み。豪華絢爛な後宮を舞台にしたトランスベスティズム(異性装)の饗宴。宦官たちのところにフツーの女と男が入り込んでいるもんだから、「あ、見えちゃいそう」とか「あ、触っちゃダメ」とか、ハラハラドキドキの連続。陵鈺は寧湖が女であることに気づいてるっぽいけど、寧湖はまだ陵鈺が男であることには気づいていないっぽい。身分の違いもあり、当然寧湖のドキドキは高まるばかり。そんな寧湖に陵鈺がいろいろとちょっかいを出す……。幼い頃、あんなにいい子だった陵鈺は、今やすっかり妙な色香を漂わせたミステリアスな偽宦官となり、後宮で暴虐の限りを尽くし、寧湖を翻弄するという構図。そういや陵鈺は、いいヤツだったとはいえ、幼い頃から既に、女装して奴隷商人から金を巻き上げるようなヤクザな男でもあったんだっけ。危うく騙されるところであった。 それにしても、何だって陵鈺は宦官のフリを? 今のところ、偽装宦官は陵鈺と寧湖だけだが、実は他にもいたりして? つーか王は若かりし頃の姿しか描かれてないが、どんなヤツになっちゃってんの? そういや、陵鈺の兄ちゃん、今ごろ何してっかなー? そして、寧湖たんの操やいかに!? 肝心要なことはまだ1巻では明らかにされてはいない。続きが気になってもやもやするが、これってちゃんと2巻出んの? レビュアー:原正人 作品紹介 無料試し読み

百年前の台湾へ、鉄道の旅。鉄道の魅力を思い出させてくれる『時空鐵道之旅(じくうてつどうのたび)』。

優秀だが、人が良いためにここぞというところで一歩を踏み出せないサラリーマンの文鋒(ブンホウ)は、帰省のために久しぶりに列車に乗る。あまり良い思い出のない列車の旅に憂鬱な気分でいたが、偶然にも同じ会社に勤める女性・茵如(インジョ)と乗り合わせる。 二人は高校・大学・会社まで同じで、ほのかな好意を寄せ合う関係のようだ。ぎこちない空気の中、列車の旅が始まった。  そんな中、文鋒は乗客の中に兎の耳を生やした少女を見つける。少女は突然、文鋒に車掌が列車を止めるよう頼むように言い、列車の事故を予知する。 少女の言葉は現実のものとなり、列車事故が起こると思われた瞬間、少女が謎の力を使い、少女の側にいた文鋒と茵如は不思議な空間に飛ばされてしまう。 少女の名前は司亞霧(しあ・きり)。未来からある目的のために時空旅行に来ている未来人だった。 霧の力で列車事故は回避され、一件落着と思いきや、三人の前に時空警察隊を名乗る人物が現れ、霧が時空跳躍法違反の罪に問われてしまう。 どうしても果さなければならない目的がある霧を助けるため、文鋒・茵如は霧と共に過去へと跳ぶことに。 鉄道を巡る三人のタイムトラベルはどうなるのか……!? 台湾の鉄道を舞台にしたファンタジー。タイムトリップという一見万能に見える能力が登場するが、読み進めていくと能力の制限やルール(例えば、トリップした先の時代の通貨は無限に偽造できたりはせず、増やすには現地で働くしかない、など)もしっかり定められており、荒唐無稽にはなっていない。 三人は百年前の台湾を始めとした三つの時代を巡り、台湾の作品ということで、日本では馴染みがないと思われる車体が多数登場するが、一話ごとに、そこに登場した鉄道の解説ページが用意されており、作品をより深く楽しめるようになっている。鉄道が主軸に据えられてはいるが、時代背景もしっかりと描かれているので、娯楽作品として読めるだけでなく、台湾の歴史をかいつまんで学ぶこともできる。幅広い読者におすすめしたい作品である。 文鋒・茵如のもどかしい関係がどうなるか、未来人の少女・霧の目的が何なのかなど、キャラクターの魅力で読ませる部分もあるが、なんといっても優れているのは鉄道の描写である。 筆者は冒頭の文鋒と同じく、列車にはあまり良い印象がなく、積極的に乗りたいと思うタイプではないのだが、この作品に登場する鉄道には乗ってみたいと感じた。煙まみれの汽車の雑然とした雰囲気や、切り開かれたばかりの大地を走る爽快感。特に、表紙にも描かれている、青い車体のブルー莒光号(きょこうごう)は、車内の様子がいかにも快適そうに描かれているだけでなく、鉄道という外界から切り離された空間での人間模様を丁寧に描いており、鉄道の旅の魅力を思い出させられる。 歴史、SF、恋愛、鉄道と、様々な要素が詰まった『時空鐵道之旅』。ぜひ、文鋒たちと一緒に時空の旅に出て欲しい。 レビュアー:mayka 作品紹介 無料試し読み

アフタヌーンティーは烏龍茶を煎れて、マンガを読もう―『異人茶跡 / 1 淡水1865』

あらすじ 1864年、清国(中国)の厦門(アモイ)で買弁(中国での欧米資本の商売を手助けする中国人商人)として活動していた李春生は太平天国の乱により、事業が打撃を受け立ち行かなくなってしまう。そんな折、知り合いの洋行(中国で活動する欧米の資本の会社)から台湾で茶商売をしようとしているジョン・トッドを紹介され、台湾に渡ることを決意する。トッドは欧米人ながら台湾の立地は茶商売に最適だと見抜き、評価の低かった台湾茶の販路を新天地アメリカに求めるのだが、彼らの前には様々な障害が待ち受けていた。 巻末の解説を読むと、ジョン・トッドと李春生は台湾茶の父と呼ばれる実在の人物らしく、ある程度史実に基づいた作品となっているようだ。 一般的にお茶にまつわる海外貿易と言うと、東インド会社の交易や、ボストン茶会事件(1773年)など紅茶にまつわるものが有名であるが、二人が注目したのは当時全く相手にされていなかった台湾の烏龍茶であり、新興市場であったアメリカに売り込むというのが面白い。 作中の方々にお茶に関する用語が出てくるが、簡単な基礎知識としてお茶は茶葉を摘み取った後の加工の仕方によって、種類が変わってくると覚えておくといいかもしれない。勿論それぞれ専用の品種もあり、加工の良し悪しにより香りや風味も大きく異なってくる。 緑茶:摘み取った茶葉を加熱処理して発酵を妨げたもの 烏龍茶:発酵途中で加熱することで発酵を止めた半発酵茶 紅茶:摘み取った茶葉を乾燥させ、もみ込んで完全発酵させたもの また、前提となる台湾の歴史を整理するとアヘン戦争(1840-1842)と、続くアロー戦争(1856-1860)で清国が敗れ、天津条約により作品の舞台となる淡水(台湾の地名)の港が欧米に開かれるのが1858年。トッドはこの新しく開かれた港に商機を見出して台湾にやってきた。その後日清戦争により日本に割譲されるのは1895年である。 豆知識を色々書き連ねたが、この作品はお茶や歴史の知識が無くても十分楽しめる作品となっている(勿論知識があれば、深い考察も楽しめるだろう)。主役となる二人、欧米人で無鉄砲ながら好奇心旺盛なトッドと、辮髪の漢民族で冷静沈着、知識豊富な春生のやりとりはいわゆるバディものとしても、二人の青年のサクセスストーリーとしても面白く読めるはずだ。ちなみに二人とも1838年生まれで1864年当時は24歳位である。この手の歴史物は案外、実際の年齢とかけ離れていたりする場合も多いのだが本当に若かったのだ。 ここまで読まれて教材的で堅苦しい作品だと思われた方もいるかもしれないが、そんなことは全くない。きちんとエンターテイメントしているので面白い漫画として仕上がっている。絵も癖のない日本漫画風で馴染みやすいだろう。 それにしても、こう言っては何だが、こんな地味な題材の歴史物が台湾で作られ、ちゃんと単行本として出版されているのは、地味に驚くべきことだと思う(しかも日本語に翻訳までされているとは!)。それだけアジアの漫画文化が成熟してきているということだろう。 現在、台湾の烏龍茶は高山茶などが有名だが、その下地を作ったのがトッドと春生なのだ。興味を持たれた方は、是非(ペットボトルでは無く)急須で烏龍茶を煎れて、彼らの足跡に思いを馳せてみては如何だろうか。 余談だが、台湾にはJohn Doddと言うティーブラインドもあるようなので、台湾に行かれた際は立ち寄ってみるのも良いかもしれない。(烏龍茶以外にも紅茶や緑茶も扱っている模様)。 レビュアー:ミソトミツエ

圧倒的画力の台湾人作家常勝が贈るアクション系歴史ファンタジー『オールドマン』。年老いた奇術師と義足義手の女戦士が不老の女王に挑む!

17世紀イギリスを思わせるとある国。女王が君臨する王宮の牢獄に、ある年老いた男が投獄されている。どうやら彼は重い罪を犯した重罪人であるらしい。独房を見回りにきた大臣に老人が語る。 「この蟻一匹抜け出せぬ王宮の牢獄から… 次の満月の夜跡形もなく消え去ってみせよう…」 満月の夜、女王その人と衛兵たちが老人の独房を取り囲む。老人の口から女王に向けて発せられた言葉は、驚くべきものだった。 「母上…」 老人の娘と見まごうべき女王が、老人の母親だというのだ。 彼らの間にかつて何があったのかは定かでない。しかし、老人によれば、女王は他者の若さを奪い取り、不老の女王となったのだという。彼は、女王がいずれ代償を払うことになると告げると、鉄格子をすり抜け、予告通り、牢獄から跡形もなく姿を消してしまう……。 もぬけの殻の独房の中に抜け穴を見つけ、慌てふためく衛兵たち。さてはこの抜け穴から脱獄したのか!? 扉の鍵をかけることすら忘れ、衛兵たちが忽然と姿を消した老人を探しに出かけると、老人は内側から扉を開け、悠然と独房の外へと抜け出す。ビリー・オールドマン、奇術師。それが老人の正体だった。 ビリー・オールドマンの目的は女王に復讐を果たすこと。彼は、手足を切断されたまま独房に入れられ、彼と同じくらい強い復讐心を女王に抱く女戦士レベッカを助け出し、ついに王宮の外へと逃れる。やがて彼らは、画家であり、医師であり、人体解剖師であり、発明家であるヴィンセント、そして予言者の少女ナイロを仲間に加え、女王に対して反逆の狼煙をあげる……。 ということで、今回紹介するのは、台湾のマンガ家常勝の『オールドマン』第1巻。台湾のマンガ家と言えば、1990年代に『モーニング』で活躍していた『東周英雄伝』の鄭問(チェンウェン)を思い出す人もいるかもしれない。あの筆遣いは今見ても衝撃。知らない人がいたら一度見ておいたほうがいい。台湾という土地柄と関係があるのかないのか、今回紹介する常勝も凄まじい技量の持ち主。この絵はどこから来たのだろうと思っていたら、1977年創刊のアメリカの雑誌『ヘヴィー・メタル』に影響を受けたのだとか。『ヘヴィー・メタル』と言えば、あのメビウスなども創刊に関わったフランスの雑誌『メタル・ユルラン』のアメリカ版として、日本マンガの多くの巨匠たちにも衝撃を与えた伝説的な雑誌。なるほど、この重厚な画面はそこから来たのか。白黒の本文も十分すごいが、表紙や各章扉はもはや超絶技巧レベルである。 この巻の白眉は、何と言っても女戦士レベッカ! どんな罪を犯したのか、手足を切断され、ダルマ状態で投獄された絶世の美女。差し伸べられたオールドマンの救いの手に噛みつく勝気さがまたいい。オールドマンに連れられ脱獄に成功すると、医師でもあり、発明家でもあるヴィンセントの助けを借り、彼女は機械の手足を手に入れる。こいつが「筋肉の代わりにエアバッグを入れ関節には火薬を仕込ん」だという代物。機械仕掛けの「戦いの女神(ワルキューレ)」として生まれ変わったレベッカの、文字通り人間離れした爽快なド派手アクションについては、実際にページをめくって堪能していただきたい。 ビリー・オールドマンと女王の間にかつて何があったのか? オールドマン一行を何が待ち受けているのか? 物語はまだ始まったばかりである。 レビュアー:原正人 作品紹介 無料試し読み 【告知】2016年10月23日海外漫画フェスタ来日予定! 同じ作家の作品:『BABY. / 1』