サイバーパンクのバロック世界 ~ママは凄腕エージェント~―『ZAYA / volume 1』

天窓から差し込む日の光を浴びて、サロン中央にそびえる1体のオブジェ。その前に黒いキャミソールドレスを着た女性が立っている。 彼女の名前はザヤ・オブリディーヌ、このホロスカルプチャー作品を作った彫刻家だ。 ワイングラスを片手にしたそのたたずまいには、それだけで「美人すぎる彫刻家」のありがたい二つ名を頂戴するのに十分な存在感がある。 側にいた美術評論家風の女性がスノッブな口調でザヤの作品を褒めそやしているが、彼女の持つ非凡さはそれだけではなかった。 酔った客が給仕係に殴り掛かるのを見るなり、脇から腕をとって肩の関節を極め、相手に何もさせないままその場から追い出したのである(ついでにイケメンの給仕係はそのままお持ち帰り)。 彫刻家+美人+関節技…いったい彼女は何者なのか? 『ZAYA』は作画を担当する中国人作家ファン・ジャーウェイと、フランス人原作者のジャン=ダヴィッド・モルヴァンによって2012年から刊行されたSFバンド・デシネ作品です。 それに先立って2009年には日本でも第3回国際漫画賞の優秀賞を受賞していましたが、その後翻訳の機会には恵まれず、この度電子書籍となって晴れて初翻訳の運びとなりました。 さて、この本の概要が分かったところで、ザヤの本当の正体をあらためて掲載いたします。 彼女はかつて宇宙規模の犯罪組織『スパイラル』でエージェントとして活躍し、仕事のためには殺しも辞さない、恐るべきヒストリー・オブ・バイオレンスの持ち主だったのです。 数年前に組織をリタイアした後、芸術家として、そして二人の娘の母親として、充実した第二の人生を送っていましたが、世の中そんなに甘くありませんでした。 『カムイ伝』からの伝統で、そう簡単に足を洗えないのが元裏稼業の悲しい性。ある日、木々に囲まれた彼女の邸宅に、スパイラルからの召集状が届きます。 再びザヤを裏稼業に引き戻したスパイラルの目的とは?各地でエージェントを狙う謎の殺し屋の正体とは? このマンガを読んでまず圧倒されるのは、その過剰とも言える画面の中の情報量。 各場面の背後に広がる退廃的な未来都市は、まるでそれ自体がひと続きの造形物であるかの様にうねり、ねじれ、強烈なキャラクターを主張して来ます。 さらにそこを行き交う飛行機や自動車には、アール・デコ風のインダストリアルデザインが施され、殺伐とした未来世界にある種のレトロフューチャー的な優雅さを添えています。 それだけで画面にはキャラクターの活躍を埋もれさせるのに十分な情報量が溢れているのですが、『ZAYA』ではペンシル画のようなハーフトーンを上手く用いて画面のコントラストを調整する事で、背景から人物を自然に浮き出させ、マンガの機能を不思議と阻害しない見事な演出をしています。 また、いたるところに広角レンズを用いたような特殊な画面構成が用いられ、それが立て込んだ狭い空間でのアクションをよりダイナミックに演出し、同時に背景の歪んだ建築物をさらに有機的に見せる効果をも付与しています。 続く二巻からはいよいよザヤの本格的なミッションが開始、その結果予想もしなかった過酷な展開が彼女の未来に立ちふさがります。 中仏双方のクリエイターが腕を振るったサイバーパンクSFの煮こごり、是非一度ご賞味下さい。 レビュアー:うしおだきょうじ 作品紹介 無料試し読み

ボンデージ美女とクリーチャーコアのゴアゴア最終戦争―『BABY. / 1』

まずはこのレビューを読む前に、このマンガのカバーアートを今一度じっくり見直してみて下さい。 …ご覧になりましたか?表紙には銀髪も豊かなスレンダーな女性が、スパンデックス風のぴっちりとした黒のスーツで全身を包み、その上から光沢も美しいレザー風のコルセットとタイツを身につけて腰掛けているのが分かりますね? さらに背中には、大きなキャリングハンドルのついたM4カービンとフォールディングストックのついたM37ショットガン、右手にはMP5サブマシンガン、左手には子供の背丈ほどもある巨大なナイフを携え、各々がガンメタルの怪しい光を放っています。 バタフライナイフの化け物を抱える左腕は、付け根の辺りで黒のスパンデックスが引き裂かれ、その上から仕上げとばかりに白い包帯がグルグル巻きにしてあります。それはまるで黒尽くめの全身とのコントラストを強調するように… と、冒頭からフェティッシュな要素ばかりを延々とあげつらって参りましたが、ここまでの文をお読みの間に心の親指をサムズアップさせた皆様。これはそんな皆様の為に描かれたマンガです。 西暦2043年12月1日、未知の生命体『Baby』が突如地上に溢れ出す。それらは次々に人間の体に寄生し、宿主にされた人間は有機物とも無機物とも判別のつかない「機人」に変異。機人は周囲の人間を無差別に殺し始め、その圧倒的な破壊力によって人類はわずか1年で絶滅の危機にまで追いつめられてしまう。 そんな中、Babyに左腕を浸食されながらも人間の姿と精神を保ったままの主人公『エレットラ』は、わずかに残る生存者を探しながら、謎の寄生体の秘密に迫ろうとするのだった。 作者は先だって同ブログに『オールドマン』のレビューが公開された台湾の漫画作家、常勝。 彼はこの『BABY.』で、2011年に台湾漫画界で最高評価とされる「金漫奨最佳年度漫画大奨」の最優秀少年漫画賞と年度最優秀賞の2つの賞を獲得しています。 また、巻頭のプロフィールにある通り、常勝氏はアメリカの『ヘヴィー・メタル』誌に強い影響を受けたらしく、言われてみればこのマンガ、表紙の艶やかさに90年代以降のヘヴィー・メタル誌の風合いがあります。 その一方でマンガ本編は、いわゆる日本のマンガのそれと変わらない文法で洗練され、冒頭から展開するアクションとサスペンスは、そのマンガの生理を用いる事で一気に読者を巻末へと誘います。 未知の生命体『Baby』とは一体何なのか?救援チームが捜し出した『アリス』と名乗る少女の正体は?多くの謎を残したまま、第一巻は終了してしまいますが、一通りキャストが揃った二巻以降で、それらの正体に迫る事になるでしょう。 余談ですが、物語冒頭のアクションシーン。あの有名なクライスラービルのてっぺんに教会を設けるとは、なんともしゃれた趣向ですね。ジョン・ウー監督が見ていたら思わず鳩を飛ばしたくなる、そんなケレン味がちょっと嬉しいノンストップのSFアクション。同好の士はどうぞご一読を。 レビュアー:うしおだきょうじ 作品紹介 無料試し読み 【告知】2016年10月23日海外漫画フェスタ来日予定!